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コラム
Volume
33

EC担当者必読!顧客離れを防ぐためのダークパターン完全ガイド

ECサイト(ショップサイト)を運営されているみなさん、近頃注目されつつある「ダークパターン」、ご存知でしょうか。もしかすると、知らず知らずの内に意図せず使ってしまい、ユーザーからの信頼を失っているかもしれません。最近ユーザー離れが起きている、といったことが起きている場合、もしかするとダークパターンが原因かもしれません。

ダークパターンとは

ダークパターンとは、Webサイトやアプリにおいて、ユーザーの意図に反した行動に誘導したり、意図的に誤解させたりするなど、企業側に有利な結果をもたらす不誠実で詐欺的なテクニックのことをいいます
ダークパターンは、ECサイト(ネットショップ)やサブスクリプションなどで度々見受けられます。一見するとユーザーの利益になるように見えることもありますが、実際には企業側の利益を優先し、ユーザーの意思決定に影響を与えたり、選択肢を巧妙に制限する仕組みです。

具体的にはどのようなものがある?

日本を含め38ヶ国が加盟するOECD(経済協力開発機構)では、7つの分類体系に区分しています。

1.行為の強制

一度買い物をしたいだけなのに登録を強制される例

サービス利用のために、会員登録を強制されたり、登録が必要と思わされる、望ましい範囲を超えた個人情報の入力を求められるケースです。

2.インターフェース干渉

企業に都合のよい選択肢が強調され、別の選択肢が不明瞭にされている例

特定の選択肢を目立たせたり、重要な情報を見えにくくし、ユーザーを意図的に誘導する。企業側に都合のよい選択肢をデフォルトにする、実際よりお得に見せる価格表示、誤解を招く広告などもこれに含まれます。

3.執拗な繰り返し

拒否する選択肢のないポップアップがしつこく表示される例

通知や位置情報の許可を繰り返し求めることで、面倒に感じさせ、最終的に許可を取る方法。何度も表示され、気力や時間を奪うことで意図的に同意を引き出そうとします。

4.妨害

解約を電話のみにするなどハードルを上げ、困難にする例

退会や解約、プライバシー設定の変更など、本来は簡単な操作を意図的に複雑にし、諦めさせる方法。サービスのキャンセルを困難にするのもこれにあたります。

5.こっそり

明確な同意なく取引の最終段階になって勝手にカートに追加される例

料金や商品を気づかれないように追加したり、無料期間終了後に自動課金するなど、重要な情報を隠したり偽装したりする手法。不要な商品がカゴに追加されるケースも。

6.社会的証明

他のユーザーの行動を示し、意思決定に影響を与えようとする例

「今◯人がカートに入れています」や「最近売れました」といった他人の行動を強調し、安心感や人気を演出して購入を促す仕組み。事実とは異なる虚偽の表示であることも。

7.緊急性

時間制限があるように見せて焦らせ、プレッシャーを与える例

「残りわずか」や「あと◯分で終了」といった表現で焦らせ、冷静な判断を妨げます。実際には常に同じ表示が出続けているケースも多く、希少性を演出して焦らせる手法です。

ダークパターンが引き起こすリスク

1. 顧客からの信頼喪失

ダークパターンに遭遇すると、ユーザーはその企業やブランドを不快に感じ、強い不信感を抱くことになります。
一度失った信頼を回復するのは極めて困難で、競合他社への流出を招く恐れがあります。また、悪評はSNSや口コミサイトで拡散されやすく、直接的に遭遇したユーザーだけでなく、さらなる信頼の低下を引き起こします。
このような信頼低下は、一部のユーザーからの苦情にとどまらず、全体のブランドイメージを傷つける結果となります。

CX Todayの調査では、ダークパターンが原因でユーザーの43%以上が購入をやめた経験があると回答しています。さらに41.30%が「我慢できないし、企業はそれをやめるべき」、43.6%が「イライラしている」と回答したということです。

また、ダークパターンに遭遇した人の33.3%は、「もうその会社のサービスは使いたくないと思う」という調査結果もあります。約42%の人が「腹が立つ・いらいらする」など、当然ともいえますが、ネガティブな反応が目立ちます。
別の調査でも、消費者の約90%がダークパターンを使う企業からの購入に抵抗がある、といった調査結果も出ています。

CrossMarketing「ダークパターンに関する調査(2024年)」のグラフを元に作成

2-1. 法的リスク

近年、多くの国でダークパターンを取り締まる法整備が進んでいます。例えば、EUではGDPR(一般データ保護規則)が施行されており、プライバシーに関する透明性を欠いたダークパターンは違法とみなされることがあります。また、アメリカでは「連邦取引委員会(FTC)」が企業に罰則を科す事例も増えているようです。

具体的な例として、欧州委員会は2022年、Amazonプライムの解約手続きが複雑であることが問題視され、法的な対応が取られた事例があります。これにより、EUおよび欧州経済領域(EEA)のウェブサイトやデバイスで、解約が2クリックで完了するようになりました。

また、2023年には、米連邦取引委員会(FTC)がAmazonを提訴。消費者を意図せずプライム会員に登録させ、解約を困難にするダークパターンを使用していたとして、民事罰と差止命令を求めました。

2-2. 国内での事例

日本国内でも、例えばサプリメント等を販売する愛知県の通信販売業者が、解約手続きの困難さや不明瞭な契約条件により、消費者庁から業務停止命令を含む行政処分を受けています。同社は、簡易な手続きにより定期購入を解除できるかのように表示していましたが、実際には解約手続きを複雑化することで解約を困難にしていたとされています。

他にも、チケット転売の仲介サイト「viagogo」が、早くしないと購入できなるかのような虚偽のカウントダウン表示をしているとして、消費者庁が注意喚起を行うなど、ダークパターンの事例が散見されます。

3. ブランドイメージの低下

インターネットでは、ユーザーの声が瞬く間に拡散します。一部のユーザーがダークパターンを指摘すれば、その情報がSNSを中心に広まり、多くの潜在顧客にネガティブな印象を与えかねません。たとえ企業が公式に謝罪しても、一度損なわれた信頼を回復するには時間がかかり、場合によっては顧客離れやブランド価値の低下といった深刻な影響を招くこともあります。

4. 収益の短命化

ダークパターンを使って得られる収益は一時的なものに過ぎません。不満を抱いたユーザーはそのサービスを利用しなくなる傾向が強いため、リピーターの獲得が困難になります。その結果、安定した収益基盤を築くことが難しくなり、競合他社に顧客を奪われる要因にもなります。ユーザーの利益を無視して短期的な利益を優先すると、長期的な成長を損なうリスクが高まります

ダークパターンを避けるべき理由

ユーザー中心のデザインを実現する

ユーザー体験(UX)を最優先に考えることで、長期的な信頼関係を築くことができます。例えば、わかりやすいナビゲーションや明確な情報提供を行うことで、ユーザーは迷うことなく目的を達成できます。そうすることでサイトや運営企業への信頼が増し、ユーザーの満足度やリピート率の向上、継続的な利用につながるでしょう。その結果、ポジティブな口コミやSNSでの評価アップにもつながるかもしれません。

法規制への対応

ダークパターンの使用は、法的リスクを伴うだけでなく、企業の信頼性にも影響を与えます。ダークパターンを避けるということは、法的リスクを回避するのはもちろんのこと、法令順守を徹底する企業としての評価を高める手段でもあります
企業のコンプライアンス(法令、企業倫理・社会規範などの遵守)に注目されている昨今では、ダークパターンはむしろ企業の信頼を損なう要因となります。また、ダークパターンを排除し、透明性を高くしておくことで、法規制が更新された場合も慌てなくてすむ可能性が格段に上がるでしょう。

競争力の向上

ユーザーに誠実で倫理的なデザインを採用することで、「信頼できるブランド」として認識されるでしょう。また、競合他社との差別化や長期的なファン獲得につながり、市場での優位性を確立する手助けとなります。ユーザーの信頼を第一に考えたサービス提供を行うことで、結果的にブランドの価値向上と収益の安定化をもたらすことができるでしょう。

ダークパターンを避けるためのポイント

ECサイトなどでは売り上げを伸ばすためにA/Bテストを行ったり、カゴ落ち、成果分析などのデータに重みをおく傾向があります。それらを重視しすぎると、企業の利益優先でユーザーを後回しにした手法 = ダークパターンに陥るリスクがあります。ダークパターンは、目先の利益を追求するあまり、意図せず使用してしまうこともあるので注意が必要です

透明性の確保

価格・料金、契約内容、解約手続きなど、重要な情報は目立つ形で提示することが大切です。特に、手数料などに関する情報は、購入手続きのできるだけ早い段階で明示し、ユーザーがすぐに理解できるようにしておきましょう。小さな文字で隠したり、わかりにくい場所に配置することは、ユーザーの不信感を招く原因となります。

デザインの倫理性を意識する

ユーザーを意図的に誤解させるような手法は排除し、誠実なデザインを意識することが重要です。例えば、「○人がカートに入れています!」と煽るのではなく、商品の特長やメリットを正確に伝えることで、ユーザーが納得して自然と購買を決定できるようにしましょう

最新の規制に目を向ける

デジタル分野の規制やガイドラインは頻繁に更新されるため、最新動向を把握するようにし、随時、適切に対応することが求められます。プライバシー関連の法律や消費者保護規制の動向には特に注意を払い、必要に応じてWebサイトやサービスの設計を見直すのが望ましいです。

法的動向

例えばEUでは、デジタルサービス法によって、以下のようにダークパターンが禁止されています。

オンライン・インターフェースのデザインと構成

1. オンラインプラットフォームのプロバイダーは、サービスの受け手を欺いたり操作したりするような方法で、またはサービスの受け手が自由で十分な情報に基づいた意思決定を行う能力を著しく歪めたり損なったりするような方法で、オンラインインターフェースを設計、編成、または運用してはならない。

デジタルサービス法(DSA)改正より

アメリカでは、米連邦取引委員会(FTC)が2024年に『Click to Cancel ルール』を義務づけ、「キャンセル方法は、申し込む時と同じくらい迅速かつ簡単でなければならない」といった規制を決定しています。

また、イギリスでは、ICO(情報コミッショナーオフィス=個人情報保護機関)と競争・市場庁(CMA)が、『デジタル市場における有害なデザイン』というガイドラインを提言しています。有害なデザイン手法により、消費者の選択や個人情報の管理を損ない、データ保護・消費者保護・競争法に違反する可能性があることを指摘しています。

日本における法的動向

日本では、ダークパターンを包括的に規制する法律はまだありませんが、景品表示法や特定商取引法などによって特定行為の規制は存在しています。
たとえば、誤解を招く広告や表示に対しては消費者庁が行政指導を行い、悪質な場合には課徴金が科されることがあります。また、2022年に改正された特定商取引法では、サブスクリプションの契約や解約手続きの明確化が義務付けられ、違反した場合には行政処分のみならず直罰の対象となっています

改正特定商取引法の施行に伴い“令和4年6月1日”からは各社カートシステムにおける ”最終確認画面“ において顧客が “注文確定” の直前段階で 下記の各契約事項を簡単に最終確認できるように表示する必要があります

  • 分量
    商品の数量、役務の提供回 数等のほか、 定期購入契約の場合は各回の分量も表示
  • 販売価格・対価
    複数商品を購入する顧客に 対しては支払総額も表示し、定期購入契約の場合は2回目以降の代金も表示
  • 支払の時期・方法
    定期購入契約の場合は各回の請求時期も表示
  • 引渡・提供時期
    定期購入契約の場合は 次回分の発送時期等についても表示(顧客との解約手続の関係上)
  • 申込みの撤回、 解除に関すること
    返品や解約の連絡方法・ 連絡先、返品や解約の条件等について、顧客が 見つけやすい位置に表示
  • 申込期間 (期限のある場合)
    季節商品のほか、販売 期間を決めて期間限定 販売を行う場合は、その申込み期限を明示

消費者庁発行事業者向け資料より抜粋

さらに、消費者庁は近年、デジタルプラットフォームの透明性を向上させるための取り組みを強化しており、「デジタルプラットフォーム取引透明化法(特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律)」を2021年2月1日より施行し、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングなどに対して報告書の義務づけや指導が行われています。また、一般社団法人ダークパターン対策協会よりガイドラインの策定も行われています。

政府は、「優良な事業者が選ばれ、悪質な事業者が排除される仕組みが実働する」ことを目指して、2025年度から行政対応強化や実態調査、法的枠組みの検討を開始するとしており、日本においても法令の整備や消費者保護の仕組みづくりが進行しています。

Webサイト、特にECサイトを制作・管理・運営する際には、ユーザーの利益を第一に考え、倫理的かつ法的に適切なデザインを心がけましょう。それが、信頼されるブランド構築のための確実な一歩です

まとめ

ダークパターンを使用することで、一時的な成果を得られる場合もありますが、長期的にはユーザーの信頼を損ない、ブランドイメージの低下や法的リスクを招く可能性が非常に高くなります。
特に近年は、SNSの普及による情報拡散力の向上、個人情報保護に関する法整備の強化、消費者の意識の高まりなどにより、ダークパターンで得られる利益よりも失うものの方が圧倒的に多くなっています
。しかしながら、企業のダークパターンに対する認識や理解は、いまだ充分とはいえません。組織としての倫理観を見つめ直していく姿勢が、今後ますます求められていくでしょう。

他方で、他社に先立ちユーザー中心の透明性が高く倫理的なデザインを採用することで、ユーザーからの信頼を獲得し、長期的な利益や企業の持続可能な成長につなげることができます。
定期的にユーザー目線で自社サイトを検証し、透明性と公正性を損なっていないか、改善する余地はないかをチェックする習慣をつけましょう。

ダークパターン防止チェックリスト

まずは以下の簡単なチェックリストを活用して、自社サイトが誠実で透明性のある設計になっているか確認してはいかがでしょうか。

  • 価格や条件はユーザーがすぐに確認できるか
  • 解約や退会は、3クリック以内で可能か
  • 意図的にユーザーを急がせる表現はないか
  • 数値を追いすぎて倫理を逸脱していないか